ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

『不滅の熱球』(東宝1955:鈴木英夫)

 シネマヴェーラ渋谷にて、「スポーツする映画たち」特集の1本『不滅の熱球』(東宝1955:鈴木英夫)を観る。再見。
 沢村栄治に扮した池部良の新婚家庭、「きょうは月給日だ、見に来るかい?」と、妻の司葉子を誘う。
「きょうはダメなの、用事があるの」と笑みを浮かべて断る妻。なおも誘う夫。
「お医者さんに行くの、赤ちゃんができたかもしれないので」溢れんばかりの笑み、幸せを全身で表現しあう二人。
 試合は完全復調なった池部が、パーフェクトに近いピッチングでタイガースを押さえ込む。しかし降り出した雨でノーゲーム。藤本監督に扮した笠智衆に「よくここまで頑張ってこれたな」と復活を祝福されながら家路へ。
 玄関で「沢村栄治さんですね」と呼び止められる。赤紙である。
「受け取りの判、お願いします」
印鑑を取りに家に入ろうとする池部。
「あっ、きょうは月給日だった」と、ポケットから印鑑を取り出し、判を押す。茫然としながら、赤紙を封筒に入れ直してコートのポケットへ。ドアを開けて家の中へ。
「あら、どなたかいらしたの?」と妻の出迎え。
「いや、誰も」とごまかす夫。
赤ちゃんの報告やら、きょうの試合の結果を詳しく聞いてくる妻。
それに対して、妻に赤紙のことを何と知らせようかと思いつつも、溢れ出そうな涙をこらえながら、ひと打者ごとに細かく説明する夫。
雨に濡れたコートを拭きながら封筒を見つける妻。その内容を知った後も、夫の心中を思って野球の会話を続ける妻。でも、とうとうこらえきれなくなって、、、。
 このシーンが一番好きだ。喜びも悲しみも1日に凝縮してしまうドラマ作りの王道を行くような野球映画の第一人者・菊島隆三のシナリオが素晴らしい。月給日=印鑑という小道具がよく効いている。
 それに何よりも、池部良の見応えある見事な演技、デビュー2年目の司葉子をしごきにしごいた鈴木英夫の演出力、傑作である。