ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

『風花』(松竹大船1959:木下惠介)

 3月10日のNHKあさイチ」のゲストは「真田丸」の草笛光子でした。その人物を語る人として、岸惠子が登場。同じ高校の1年先輩後輩という間柄というのは知っていたが、同じ演劇系のクラブに所属していて、今でもよく電話でやり取りする大の仲良しということは初めて知りました。
 そんなわけで、昔のフロッピーディスクから、岸惠子について書いたことを転記しておきます。

 さて、『風花』は岸恵子が結婚してフランスに渡り、初めて里帰りした時の作品である。フランス帰りであれば、現代風の活動的なキャラクターを考えるのが常套手段だが、そこは天才・木下恵介の違うところ。岸恵子の本質が日本的な芯の強い耐える女であると見抜いている木下は、そんな性格設定を用意した。小作の娘春子・岸恵子は17歳の時、地主の次男と心中。岸だけ助かり、次男との子どもが生まれ捨雄と名付けられる。二人は地主の下男・笠智衆の世話で、地主の家に住み込むことになる。それから18年間、周囲からの迫害にあいながら、捨雄・川津祐介の成長を楽しみに生きている。川津が地主の娘・久我美子に恋していることを知るにつけ、過去の悲しみが思い出される岸。久我の結婚を機に、思い出を胸にしまいつつ、新しい生活へと旅立つ岸と川津の親子。
 こんな内容だが、テクニシャン木下は、この作品でもあっという手法をあみ出す。過去と現在をカットバックでつなぐ手法である。今でこそあたりまえだが、その頃は回想シーンは人物のアップにオーバーラップしてから、回想に入る、そして現在に戻るときはその逆というのが常識だったのだから。事実、木下の『野菊の如き君なりき』('55)では、回想シーン(ほとんど全編回想シーンだが)は、楕円形のボカシでくくられている(この手法もアッと驚く手法だった)。
 この現在と過去をカットバックでつなぐやり方は、アラン・レネに影響を与えているのではないかな。58年に『二十四時間の情事』で来日しているレネ。『風花』は59年の正月映画。その時は見ていなくても、後で見て、『去年リエンバートで』('60・64年日本公開)に何らかの影響を与えた、と推測するのだが。
 この『風花』、にんじんくらぶ所属の三人娘、岸恵子久我美子有馬稲子の初めてで最後の共演作である。もっとも三人共演と言っても有馬稲子は久我の友人役で、岸との接点はない。が、そこはサービスとして、三人が並ぶシーンを作っている。
 私の岸恵子ベスト5は『君の名は』三部作、『早春』、『雪国』('57・豊田四郎)、『風花』、『おとうと』('60・市川崑)。『弥太郎笠・前後編』('52・マキノ雅弘)、『ここに泉あり』('55・今井正)、『あなた買います』('56・小林正樹)、『約束』('72・斎藤耕一)、などまだまだいい作品はある。

「シネマディクト日曜版1994年7月号」の中で連載「ぴくちゃあVol.11」より
22年前の文章です。