ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

『マイ・バック・ページ』(2011:山下敦弘)




 『マイ・バック・ページ』(2011:山下敦弘)をユナイテッド・シネマ豊洲スクリーン7にて見る。1000円(金曜日会員割引)、パンフレット600円。
 141分、スクリーンを食い入るようにみてしまった。冒頭の全共闘アジ演説、ちょっと違うなと思ったものの、あとはあれよあれよという間に、結果はわかっているのに、その濃密な画面、スリリングな展開に完全に没頭してしまった。
 私が高校に入学した1968年は、日大全共闘やら東大全共闘が大活躍していて、やがて東北大学にも飛び火して新左翼系の立て看板を見かけるようになった。けれども、高校生活は表面上は明るい未来を漠然と夢見るような平和さであった。
 それが1969年1月の東大安田講堂陥落を受けて、東大入学試験は中止になってしまってからが大変。その影響は東北大入試に劇的に変化をもたらした。東大志望者の何割かは東北大になだれ込み、ギリギリで合格していた我が高校は、前年度初めて30台の合格者を出して意気上がっていたのもつかの間、一桁台に落ち込んでしまった。
 そんなおり、世間的な高校紛争ブームがわが高校にもやってきた。体制=学校側お仕着せの「生徒会」解体に始まり、制服自由化運動など、クラス集会、全体集会、などと集会に明け暮れていたような気がする。
 高校3年の世界史授業の冒頭、「今、テレビニュースを見たきたが、三島由紀夫自衛隊で決起を呼びかけて自決したようだ」と報告してくれた。クラス中がいっせいに沸き立ち、「あのバカがついにやったか!」と叫んだり、騒然状態がしばらくは続いたのを覚えている。
 あの頃は、「左翼にあらざれば人にあらず」みたいな空気がただよっていて、クラスの大半が三島由紀夫の思想そのものには嫌悪していたと思う。けれども、時代を変えたいという行動にはすくなからず共感したのかもしれない。それが「あのバカが~」という叫びになったのだ。
 梅山(松山ケンイチ)もそんな時代の流れに乗り遅れまいとあせっていたのだろう。志しは低く、チンケな奴なので、時代が変われば、ディスコブームで踊ったり、バブルではじけたり、あるいはマルチ商法に手を出したりしていたかもしれない。
 そんな梅山にまんまと騙されてしまう沢田(妻夫木聡)をバカだなと笑えば笑え。あの時代であればこその自分に対しての真摯な気持ちからの行動だったと思う。
 何かしなければ、という思い、雰囲気が、妻夫木聡松山ケンイチの二人からは充分に感じられる。その二人の緊迫した関係、世界を、16mmフィルムのザラザラした感触に掬い取った山下敦弘の演出力はすごい、と再認識した。
 脇役では京大全共闘・前園勇を演じた山内圭哉がすごい。まるでドキュメンタリー『パルチザン前史』(1989:土本典昭)の主人公・滝田修がそのまま降臨してきたかのような錯覚さえ覚えた。『瀬戸内少年野球団』(1982:篠田正浩)の級長・足柄竜太少年の成長した姿とはとても思えない。
 また、ワンシーン出演のおいしい役柄とはいえ、社会部長・白石に扮した三浦友和の「うちは学生新聞つくってんじゃねえぞ!」のひと言は、迫力満点だった。

下記をクリックしてください。「ぴくちゃあ通信」のランキングが表示されます。
[https://movie.blogmura.com/movie_japanese/ にほんブログ村 映画ブログ 日本映画(邦画)]
[https://movie.blogmura.com/movie_director/ にほんブログ村 映画ブログ 映画監督・映画俳優]