ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

『千客万来』(松竹大船1962:中村登)

 シネマアートン下北沢にて『千客万来』(松竹大船1962:中村登)を見る。
 中村登監督は、たまに『夜の片鱗』(松竹大船1965)のような失敗作も撮るが、概ね平均値以上の作品が多い。『千客万来』は平均値以上、上出来の楽しい作品である。
 クレジットの一枚目は佐田啓二岡田茉莉子のふたり、二枚目が桑野みゆき、鰐淵晴子、岩下志麻の3人。主演は?と問えば、しいてあげれば岩下志麻になろうか。
 岩下志麻川津祐介の結婚生活を中心に志麻の叔父・佐田啓二岡田茉莉子夫婦の生活ぶりを対比させながら展開する。
 桑野みゆきが志麻の同僚として登場するが、岩下志麻と比べて断然うまい。みゆきは目がいきいきと輝き、表情豊か。志麻の目はしっかりと据わってはいるが、まだ表情は硬い。
 このふたりの立場が逆転するのは、この1962年あたりかもしれない。志麻が『秋刀魚の味』(松竹大船1962:小津安二郎)や『古都』(松竹大船1963:中村登)などの代表作となる作品に出演していったからである。
 『千客万来』に話を戻すと、この作品、小津のパロディに満ちあふれている。山村聡の父親に三宅邦子の母親、娘が岩下志麻で妹が鰐淵晴子、父親の弟夫婦が佐田啓二岡田茉莉子、父親の友人に伊藤雄之助、その奥さんが水戸光子。志麻は伊藤の会社で働いている。伊藤の仲人で、憎からず思っている同僚の川津祐介と結婚する。
 山村と伊藤がバーで、「これがよく効くんだ」と精力剤を飲んだり、三宅と水戸が旦那のグチを言い合ったり、と小津作品を思い浮かべて楽しくなってしまう。