ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

『スパイ』(大映1965:山本薩夫)


 28日浅草新劇場にて、『スパイ』(大映1965:山本薩夫)を見た。再見。
 中央新聞社の記者・田宮二郎は、長崎県密入国者大村収容所から韓国人学生(山本学)が脱走した、というベタ記事に興味を持ち調査し始める。やがてその背後にはスパイ組織が暗躍していることがわかってくる。そして実行犯のスパイは、なんと幼なじみの中谷一郎だった。
 といっても、ふたりが感傷にひたっているわけではない。あくまでもドライに、田宮の新聞社がつかんでいる左翼情報を流してくれる交換としてスクープネタを提供すると、中谷は持ちかけてくる。田宮は心を動かされながらも、拒否する。幼なじみという設定はカセとはなっていない。むしろ、中谷の愛人・小川真由美をめぐる三角関係がカセとなって、ラストの悲劇へと向かう。
 田宮のモノローグ、中谷のモノローグと交互に進行するが、どっちつかずでおもしろくない。新聞記者をヒーローにした社会正義映画は今までいくらでもある。せっかく『スパイ』というタイトルをつけたのだから、中谷側から一貫して描くべきではなかったかな。
 スパイを田宮が演じたほうがはるかにおもしろい。とはいっても、大映配給である以上、看板スターを悪役にすることは許されなかったのだろう。
 その許されなかった企画を山本薩夫チーム(伊藤武郎、宮古とく子プロデューサー)は、翌年『白い巨塔』(大映1966:山本薩夫)で実現するわけである。
 この作品、日韓会談を時代背景にしている。この頃はまだ北朝鮮に好意的な風潮が世の中にはあった。希望の国北朝鮮に帰る帰国船も出てくる。あの歓喜の表情で帰国していった人たちは今ごろどうしているんだろうか。