シネマアートン下北沢にて、『酔っぱらい天国』(松竹大船1962:渋谷実)を見る。900円(会員)。
なんとも笑うに笑えない喜劇である。
男やもめの笠智衆は、一人息子・石浜朗と二人暮らし。会社では謹厳実直なサラリーマン、家事もきちんとこなし、恋人・倍賞千恵子と結婚したいと打ち明けた石浜朗を「もう少し二人だけで住もうよ」というような息子を溺愛している父親である。
そんなとき、酒場での喧嘩に巻き込まれて、石浜朗が重傷を負って入院。相手はプロ野球ピッチャー・津川雅彦。監督の山村聡が、笠智衆の上司・滝沢修と古くからの友人というコネを使い、示談にしてしまう。
しこたま接待酒を飲んで朝帰りしてみれば、回復に向かっていた息子の容態が急変して死んだという知らせ。つくづく自分のバカさ加減を反省し、断酒宣言。
そんな彼の唯一の楽しみは、息子の恋人・倍賞千恵子とやがて生まれてくるであろう孫と一緒に暮らすこと。しかし、恋人の敵・津川雅彦を忌み嫌っていた倍賞も、あっけなく津川と同棲してしまう。楽しみにしていた孫も結婚するためのウソとわかり、さらに津川は一時的スランプから抜け出して絶好調!
踏んだり蹴ったりの笠智衆、またぞろ酒に溺れる日々の始まりであった。
この作品、正攻法で酒の害を訴えたかったヒューマニスト松山善三の脚本をいじくり回してブラックユーモアの世界にもっていこうとした渋谷実の失敗作というところかな。