ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

志村喬ベスト5

 まだ本も買っていないのを哀れんでか、Kさんに送るついでにか、T・Nさんから志村喬のフィルモグラフィのコピーを送ってきた。ありがとう。それを見ると、415本映画に出ている。これが完全なものに近いのだろう(でも72年の『極道罷り通る』(小沢茂弘)が抜けていた)。その中で、私が見ているのが80本ぐらいしかない。

それでベスト5は、
『鴛鴦歌合戦』('39・マキノ正博)、
次郎長三国志・第八部・海道一の暴れん坊』('54・マキノ雅弘)、
『男ありて』('55・丸山誠治)、
『帰らざる波止場』('66・江崎実生)、
男はつらいよ』('69・山田洋次)、
という具合である。

 あえて、黒澤作品は無視している。もちろん、私も公平な目で見て№1であると認めるし、人間国宝にして当然だと思う。でも、あまりにも黒澤明だけが突出して評価されて、他の監督たちが過小評価されている傾向がある。例えば、木下恵介、もっと正当に評価してもいいはずだ。寝転がってシナリオを助監督に口述筆記させて、名作を次々に連発する人なんて他にいるだろうか。天才以外の何ものでもない。あるいは市川崑、彼の研究書が1冊も出ていないのはどうしたことなんだろう。死んでからでは遅いのだ。死んでから成瀬巳喜男を評価しても遅いのだ。自分からどんどん発言して本も出している新藤兼人は、弟子もしっかりしているからいいけど、市川崑が死んだら、誰が本を出してくれるんだろうか。小林正樹野村芳太郎とか、せめて生きているうちにインタビュー集が出版するのが、映画ジャーナリズムの使命ではなかろうか。
 黒澤明研究会のメンバーは志村喬の死後8年間かけて、280ページB5判タイプ印刷の「記録志村喬」を出している。その事実を見習ってほしい。


「シネマディクト日曜版1994年7月号」の中で連載「ぴくちゃあVol.11」より
22年前の文章です。読みやすいように、原文に改行したり、一行空けたりしています。