ぴくちゃあ通信

日本映画をメインにしたブログです。東宝映画を中心に古い作品から新しい作品まで、時には俳優を中心に話を展開します。

『はじまりのみち』(2013:原恵一)


 

 

 
 『はじまりのみち』(2013:原恵一)を東劇にて見る。1000円、パンフレット600円。
 すばらしい! これほどまでにいいとは! 木下惠介(加瀬亮)の母親・たま(田中裕子)への愛、この一点に絞った演出の勝利である。
 昭和20年6月、浜松市内も空襲で焼かれてしまい、一家をあげて静岡県内の山奥へ疎開することになった木下家。脳卒中で寝たきりの母親も、バスに乗せなければならない。監督予定作品が、軍部の検閲で中止になり、松竹に辞表を出して浜松に戻っていた木下惠介が、揺れが激しいバスは負担が大きすぎると反対する。
 結局、兄(ユースケ・サンタマリア)とともにリヤカーに寝かせた母親を引いて行くことに。荷物運びのために雇った便利屋(濱田岳)と共に、一昼夜の四人旅。この行程中いくらでも、回想シーンを入れられるのに、山道を黙々とリヤカーを引いたり、押したりの姿を、愚直なまでに淡々ととらえている。
 そんな単調な流れに、大いに変化をつけてくれるのが、便利屋を演じた濱田岳。寡黙な3人(母親は病気のため、ほとんどしゃべれず)を相手に、しゃべることしゃべること。彼の存在なくして、この作品は成立しなかった、と思えるくらいである。
 軍部に嫌われた『陸軍』のラストシーン、そこにこそ感動した、と言う一庶民である便利屋くんの言葉にかぶさるように『陸軍』(1944)のラストシーンが映し出される。大いに盛り上がり、大いに涙がながれる。
 一庶民の言葉や、母親の筆談に励まされ、木下惠介は撮影所へと戻って行く。リヤカーを引いた山奥の道=はじまりのみちを経て大きく成長した彼は、戦後『わが恋せし乙女』(1946)を始めとする数多くの名作を世に送り出して行く。
 ラスト、それらの名作群が次から次へと映し出されていく。その至福の時間、また、涙、涙、涙、であった。

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